2018年9月12日、宝運丸の事故によって損傷した関西空港の連絡橋が深田サルベージさんのクレーン船(起重機船)その名も ”武蔵” によって撤去されましたね。テレビなどでよく見るクレーン船ですが、船として浮いているにも関わらず、なぜ重たいものを持ち上げられるのでしょうか。
それには、船が転覆しないためのバラスト水のしくみと、重たいものをなるべく小さい力でつりあげる滑車のしくみが関係しています。
船が転覆しないためのしくみ
通常、重たいものを吊ると、荷物の重力で船の重心がずれ、このように傾いてしまいます。このとき重心を正しく保つために、反対側に水を入れておくのです。(バラスト水といいます)これがウエイトバランスをとってくれます。英語ではCounterweightといいます。たとえば、2000tつりあげるクレーン船ならば約7500m3ものバラスト水をタンクに充填して安定性を保ちます。
そもそもなぜ重たくて大きな船が浮くのかというと、浮力が働いているからです。1000t分の浮力がほしければ、1000t分の水を船が押しのければよいのです。くわしくは、『船はどうして浮くの?』をご覧ください。
浮くことが前提で、あとは船のバランスを調整すればよいですね。
重たいものをなるべく小さい力でつりあげるしくみ
重たいものをなるべく小さい力でつりあげるには滑車の原理をつかいます。
天井に固定した定滑車だと荷物と同じだけの力が必要ですが、固定していない動滑車だと半分の力で済みます。
これをたくさん組み合わせると、小さい力で重たいものをつりあげることができます。
たとえば下のイラストだと、100の重さのものを持ち上げるのに5つの動滑車(ブルー)を使っているので、
100÷5で1つあたり20の負荷です。そして動滑車はつりあげる力が半分で済むため、最終的に引っ張る強さは10で済みます。
この原理がクレーン船の先端に使われています。ロープをまきあげる際、油圧の負荷を下げられますね。
地に足つけて踏ん張るわけにはいかないクレーン船ですが、そのぶん広大な海が浮力の力によって支えてくれています。計算されつくした設計・操縦によって船1隻でも持ち上げることができる、かっこいい船です。