船の排ガスには人体に有害な窒素酸化物NOxが含まれることについてはこちらの記事『船の排ガス規制と対策、NOx、SOxとは?』で書きました。
以下では、NOxを排ガスから除去する設備SCRと、NOxをなるべく発生させないようにする設備EGRについてご説明します。
排ガスからNOxを除去するSCR
SCR(Selective Catalytic Reduction)というのは、日本語では「選択触媒還元」と呼ばれ、還元剤が触媒環境のもとで選択的にNOxと反応しN2に還元する、といった意味です。
わかりやすく図で説明します。
エンジンから出た排ガスにはNOxが含まれています。この排ガスの通り道に尿素水を噴射させます。すると尿素水は高温条件下でアンモニアに姿を変えます。(排ガスはとても高温の状態です)
チタン・バナジウム系などの触媒ユニット(※1)のなかでアンモニアがNOxと反応し、NOxを窒素N2に戻してくれます。(”還元”といい、この場合アンモニアが”還元剤”となります)窒素N2は空気中にも自然に存在しており無害のため、大気へ放出されます。
(※1) 触媒というのはそれじたいは反応はしないけれども、反応を早めたり反応しやすくするためのものです。
★排ガスからNOxを除去する装置のことを脱硝装置と言ったりもします。
NOxをなるべく発生させないようにするEGR
EGR(Exhaust Gas Recirculation)というのは、日本語では「排ガス再循環」と呼ばれ、排ガスの一部を再びエンジン内に送り込むことで燃焼ガス温度が高くなるのを抑え、結果Thermal NOxを大幅に減らすことができるシステムです。
→Thermal NOxについてはこちら『船の排ガス規制と対策、NOx、SOxとは?』
わかりやすく図で説明します。
エンジンから排ガスが出ます。この排ガスの一部(例:全体の30%など)をエンジンの燃焼室内に再び戻して再循環させます。
そのまま戻すと排ガス中のSOxや”すす”などが原因で、エンジンの故障につながったりPM(微小粒子)がかえって増えたりするので、スクラバーや水処理装置などでSOxや不純物などを取り除いてから戻します。→『船の排ガスSOxを減らす設備、スクラバーとは 』
燃焼室内に戻された排気は新しい空気と比べると酸素濃度が低いため、エンジンの燃焼温度の上昇を抑えることができます。また、CO2などの反応性の低いガス(不活性ガス)が多く含まれるため、燃焼室内の熱容量を上げることになり、結果温度が上がりにくい状態にすることができます。
このように燃焼室の温度上昇を抑えることで、空気中の窒素N2が高温条件下で酸化反応することで生成されるThermal NOxを減らすことができるわけです。
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どちらのシステムが良いかは船によります。初期コストや運用コスト、メンテナンスの簡単さ、制御の簡単さなど、たくさんのポイントを考慮して決めることになると思います。
排ガスに関する技術は今後もまだまだ進化を遂げていくでしょう。
2 Thoughts on “船の排ガスNOxを減らす設備、SCRとEGRの仕組み”